高血圧のくすり

高血圧の治療では、生活習慣の改善と併せて薬で血圧を下げることも大切です。

血圧を下げる薬は「健康のもと」と前向きに捉え、服用を続けて血圧をコントロールしましょう。


薬はいつのみ始める?                

血圧の値とほかの病気があるかどうかで変わる

日本の高血圧の患者数は、4300万人にも上ると推計されています。

そのうちの約半数が医療機関にかかっていますが、治療によって血圧がきちんと正常域まで下げられているのは、500万人程度にとどまっているといわれています。

 

高血圧と診断されたら、診察室血圧で上が140mmHg未満/下が90mmHg未満を目指

して治療に取り組みます。

 

ただし、糖尿病や、たんぱく尿を伴う腎臓病の人は、脳卒中や心筋梗塞の発症の危険性が高いので、より厳しい値の上が130mmHg未満/下が80mmHg未満を目標にします。

 

一方、75歳以上の人は、全身の臓器への影響を考慮し、より慎重に血圧を下げる必要があるため、上は150mmHg未満/下は90mmHg未満を目指します。

家庭血圧は、それぞ’れ5mmHg未満を引いた値が治療目標になります。

 

■ 薬をのみ始めるタイミング

血圧を下げる薬(降圧薬)をのみ始める時期は、脳卒中や心筋梗塞を起こす危険性によって、それぞれ異なります。

 

例えば、上の血圧が140~150mmHgで下の血圧が90~99mmHg、肥満、喫煙、

脳卒中や心筋梗塞といった危険因子がない場合は、まず生活習慣の改善を行い、3か月

経過しても正常域まで下がらなければ薬を併用します。

 

上の血圧が180mmHg以上あったり、糖尿病や腎臓病などがある場合は、初めから薬を用います。

 

これらの危険性が中等度の場合は、1か月ほど生活習慣の改善に取り組み、正常域に戻らなければ薬の併用を始めます。

 

 

薬はどう選ぶ

持病などを考慮して主な5つの薬から選ぶ

高血圧の薬物療法では、主にカルシウム桔抗薬、ARB、ACE阻害薬、利尿薬、β遮断薬という5種類の薬が用いられます。

 

これらのうちどれを選択するかは、患者さんの持病によって異なり、持病への治療効果もある薬が勧められます。

持病がない人には、心臓の働きをゆっくりにするβ遮断薬を除いたほかの薬が選択されます。

 

また、血圧が上がる要因で、次のように薬を使い分けていきます。

 

 とりすぎた塩分を体外に出す

食塩をとりすぎている人は、体の中に塩分と水分をため込み、高血圧を招きます。

この場合、腎臓に作用して、増えすぎた塩分の排泄を促す利尿薬で血圧を下げます。

 

■ ストレスによる血管収縮を抑える

さまざまなストレスによって、血圧を調整するホルモンが分泌されて、その結果、血管が収縮し血圧を上昇させます。

 

ストレスが続いて高血圧を招いているような場合は、血管を拡張させるARBやACE阻害薬、あるいはβ遮断薬、カルシウム桔抗薬で血圧を下げます。

 

 薬の副作用

副作用は、降圧薬の種類によって異なります。

気になる症状が現れたら、服用を中止して担当医に相談してください。

副作用の症状や程度によっては、薬の減量や変更を検討します。

 

薬をのむときの注意点

継続してのむのが基本 副作用にも気をつける

高血圧の薬は、継続して服用するのが基本です。

血圧を下げる目的以外に、心臓病や腎臓病の治療薬を兼ねている場合もあるので、患者さんが自己判断で薬をやめたり減らしたりするのはくれぐれも避けましょう。

高血圧の薬は「健康のもと」と捉え、のみ続けてください。

 

服用を続けているのに血圧がなかなか下がらないということもあります。

その場合は、次の点を確認してみます。

 

◎ 薬ののみ忘れはないか’?

高齢者に多く見られます。

のみ忘れを防ぐ工夫として、一度にのむ薬を薬局で一包化してもらったり、服薬カレンダーを作ってチェックする方法もあります。

1日1回服用の薬なら、基本的にのみ忘れに気付いた時点で服用するようにします。

 

◎ 生活習慣の改善を続けているか?

薬の服用と併せて、生活習慣の改善もしっかり継続していく必要があります。

 

◎ 悪い影響を与える薬や食品をとっていないか

痛み止めの薬(非ステロイド性抗炎症薬)や、甘草を合む漢方薬やサプリメントは、降圧薬の効きを悪くする場合があるので要注意です。

 

◎ ほかの病気はないか

原発性アルドステロン症という、腎臓の上の副腎に肥大や腫瘍が生じる病気があると血圧が上がります。

高血圧の患者さんの数%に起こり、低カリウム血症に陥る場合もあります。

また、睡眠中に呼吸が何度も止まる睡眠時無呼吸症候群も、高血圧を招きます。

 

大きないびきの人や、肥満の人がなりやすい病気です。

 

血圧はその人の「健康を診る窓」

高血圧は症状のない病気です。

知らないうちに血管を傷つけて、脳卒中や心筋梗塞など重い病気の原因になります。

そのため「高血圧病」という捉え方をして、日々の自分の血圧の値を手がかりに、重い病気を防ぐ目的で治療を継続する必要があります。

ただし、血圧は1日の中で常に変動しています。

きちんと薬をのんだり生活習慣の改善を続けていても、時に血圧が高くなることもあります。

そういう場合、特別な症状がなければ、むやみに心配する必要はありません。

そのときどきの血圧の値に一喜一憂せずに、長期間の値の平均に着目してください。

 

血圧はその人の「健康を診る窓」です。

高血圧の治療は、健康長寿を目指す前回きな取り組みです。

かかりつけ医を見つけるきっかけにもなり、継続通院することにより、高血圧以外の「がん」や「糖尿病」などを早期に発見することもできます。

 

参考

きょうの健康 2015.11