シオノギ 2018.5 作成
新規抗インフル薬「ゾフルーザ」をどう使う?
https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/hotnews/int/201803/555022.html
2018年2月23日、抗インフルエンザウイルス薬バロキサビル マルボキシル(商品名ゾフルーザ錠)の製造販売が承認された。(塩野義製薬から発売)
ゾフルーザは2015年10月、従来より審査期間を短くして早期の実用化を目指す「先駆け審査指定制度」の対象品目に指定されており、申請から4カ月でのスピード承認となった。
ゾフルーザはオセルタミビルリン酸塩(タミフル)と比較し、抗ウイルス効果が有意に高いことが確認されている。
単回投与で済むため、患者の服薬コンプライアンスを心配する必要がない。
また、既存薬とは作用機序が異なるので、タミフルをはじめとしたノイラミニダーゼ阻害剤に耐性を獲得したウイルスにも効果が期待できる。
適応は、A型またはB型インフルエンザウイルス感染症。
A型またはB型インフルエンザウイルス感染症患者を対象とした第III相臨床試験では、インフルエンザ罹患期間の短縮効果についてはゾフルーザ群(単回投与)とタミフル群(1日2回 5日間投与)で同程度であり、副作用発現率はゾフルーザ群で有意に低かった。
またタミフル群と比較し治療開始1、2および4日後のインフルエンザ陽性患者の割合を有意に減少、ウイルス排出期間の短縮においてもゾフルーザ群が優越性を示した。
ゾフルーザは、mRNA合成の開始に関わるキャップ依存性エンドヌクレアーゼの活性を選択的に阻害し、ウイルスのmRNA合成を阻害することで、インフルエンザウイルスの増殖を抑制する。
ゾフルーザはウイルス増殖過程のかなり早い段階で作用する。
既存薬とは作用機序が異なるので、重症例やタミフル耐性例では他剤と併用することも考えられる。(ただし保険診療上は問題あり)
また、タミフルをはじめとするノイラミニターゼ阻害剤はインフルエンザ発症後から48時間以内の投与が必要であり、ゾフルーザも添付文書で発症後速やかに投与することが推奨されている。
一方、作用機序から考えると、ノイラミニターゼ阻害剤に比べてゾフルーザは、多少投与が遅れても有効な可能性がある。
インフルエンザの新薬ゾフルーザは“早く楽になる”
ウイルスの消失が速く、家族内感染を減らせる可能性
https://gooday.nikkei.co.jp/atcl/report/15/122200053/121700048/
この冬(2018年〜2019年)のインフルエンザには、2つの新しいトピックスがある。
一つは、インフルエンザの治療薬に「ゾフルーザ(一般名バロキサビル)」という新薬が登場したこと。
もう一つは、これまで10代の患者への使用が制限されていた「タミフル(一般名オセルタミビル)」の添付文書が改訂され、10代への使用制限が解除されたことだ。
タミフルについては、同じ成分で窓口負担の少ないジェネリック医薬品(後発品)も登場した。
ゾフルーザを飲むと、丸一日で半分の人のウイルスがなくなる
ゾフルーザは、これまでのインフルエンザ治療薬(タミフル、リレンザ〔一般名:ザナミビル〕、イナビル〔一般名:ラニナミビル〕、ラピアクタ〔一般名:ペラミビル〕)とどう違うのだろうか?
まず作用機序(メカニズム)が、これまでの薬と全く違う。
これまでのインフルエンザ治療薬は、ノイラミニダーゼ阻害薬と呼ばれる種類の薬で、感染した人の細胞の中で増殖したインフルエンザウイルスが、他の細胞に広がるのを抑える作用があった。
一方、ゾフルーザには、ウイルスの増殖そのものを抑える働きがある。
ゾフルーザの効果は非常に高い。
インフルエンザを発症した後、熱や咳、鼻水、節々の痛み、疲労感などの症状がすべてなくなるまでの時間(罹病期間)についていうと、ゾフルーザはプラセボ(偽薬)より中央値で1日余り早く、タミフルとの比較では同等という結果が出ている。
罹病期間ではタミフルとの差が出ていないが、ゾフルーザはインフルエンザの主症状である「きつい、つらい」症状に関して、従来の薬よりも「早く楽になった」と話す患者さんが多い。
その理由としては、作用機序の違いだ。
ゾフルーザには、インフルエンザウイルスの増殖そのものを抑える作用があるので、ウイルスがなくなるスピードが速い。
ゾフルーザを投与すると、丸一日で半分の人のウイルスがなくなる。
これまでの薬の中で最もウイルスの消失が早いラピアクタでも、3日で80%の人のウイルスがなくなる程度だから、かなり早いスピードだ。
患者さんの中には、昼に当院を受診してゾフルーザの処方を受け、翌朝には「楽になりました」と話す人もいる。
タミフルとの直接比較でも、ゾフルーザの方がより早くウイルスが減少することが示されている。
患者がインフルエンザウイルスを排出しなくなる(ウイルスが陰性になる)までの時間の中央値は、タミフルを投与されたグループが72時間だったのに対し、ゾフルーザを投与されたグループは24時間。
2日もの差があった。
インフルエンザの症状の改善は体の免疫反応なので、ウイルスの量だけで単純に決まるわけではなく、その程度や持続期間には個人差がある。
そのことを踏まえても、ゾフルーザを使用した人で早く症状が良くなる人が目立つのは、ウイルスの消失スピードの速さが影響していると考えられる。
さらに、ウイルスの消失が早いということは、家族や周囲の人にうつす2次感染のリスクを低くする可能性を意味する。
家族内感染の起こしやすさは薬によって異なる
実は、どの薬を使うかによって、インフルエンザの家族内感染の起こりやすさに差が見られることがわかっている。
この研究には新薬のゾフルーザは含まれておらず、4種類の従来薬(タミフル、リレンザ、イナビル、ラピアクタ)を比較している。
対象は、インフルエンザに感染した1807人(A型1146人、B型661人)の患者とその家族。患者の発症後、家庭内で同じ型のインフルエンザに感染した人(2次感染者)の割合(2次感染率)を調べたところ、2次感染率は、タミフルを使用した患者で最も高かった。
そのタミフルとの比較で、統計学的に有意に2次感染率が低かったのは、ラピアクタとリレンザだった。
イナビルとタミフルの間には統計学的な差がみられなかった。
ゾフルーザは1回飲むだけで治療が完了
ゾフルーザのもう1つの従来薬との違いは、「1回飲むだけで治療が完了する飲み薬」であるという点だ。
これまでのインフルエンザ治療薬で、飲み薬としてはタミフルがあったが、1日2回、5日間飲む必要があった。
1回の投与で済む薬としては、吸入薬のイナビルと点滴薬のラピアクタがあるが、「点滴薬のように時間がかからず、薬を受け取って1回飲めば治療が完了するという意味では、ゾフルーザにはイナビルに匹敵する利便性があると言える。
飲み薬であれば、吸入が上手にできない小児でも使うことができる。
では、この冬インフルエンザにかかった患者は、皆ゾフルーザを飲めばよいということになるのだろうか?
確かに承認前の治験では十分な効果や安全性が認められたが、治験に参加した患者の数は1000人程度だ。
ゾフルーザが発売になったのは、昨シーズンの流行が終盤に入った2018年3月中旬なので、まだそれほど多くの患者に使われていない。
どんな新薬も、臨床現場でかなりの人数に使われないと、本当に安全で良い薬であるかは分からない。
なお、ゾフルーザの治験では、治療中に小児患者の2割強、成人患者の約1割で、「アミノ酸変異株」の出現が認められている。
それらの患者では、インフルエンザウイルスのゾフルーザに対する感受性の低下がみられたが、感受性の低下幅は約50倍と比較的小さく、そのことがゾフルーザの治療効果の低下につながるかどうかは分かっていない。
他のインフルエンザ治療薬(ノイラミニダーゼ阻害薬)でも、治療中に低感受性ウイルスや耐性ウイルス(感受性が100倍以上低下したウイルス)が出現することが分かっているが、いずれも臨床効果への影響は不明だ。
ゾフルーザは、現時点では予防投与が認められていない。
薬剤費を比較すると、今シーズン登場したタミフルのジェネリック医薬品「オセルタミビル(一般名オセルタミビル)」が一番安い。
インフルエンザの治療を受ける際は、こうした違いも頭に入れておきたい。
インフルエンザの予防にはワクチンなどの手段がある。
だが、自己の感染予防以上に大切なことは「インフルエンザにかかった人が、周りの人にうつさないこと」だ。
急な寒気、熱、咳、節々の痛みといったインフルエンザのような症状が出てきたら、無理して出歩かず、早めに受診し、休息をとる必要がある。
周りの人に感染を広げないよう、1人1人が配慮することが、社会全体の流行を抑えるためには一番重要だ。
主な抗インフルエンザ薬の作用機序(塩野義製薬プレスリリースより)
https://medical.nikkeibp.co.jp/mem/pub/hotnews/int/201803/closeup/555022_789.html
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ゾフルーザは、キャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害剤に属する唯一の抗インフルエンザウイルス剤であり、単回経口投与で治療が完結。