血栓症

血栓症は、脳梗塞、心筋梗塞、肺塞栓などに代表される凝固関連性疾患で、厚生労働省平成18年の死因別死亡数の割合によると、悪性新生物(30.4%)、心疾患(15.9%)、脳血管疾患(11.8%)と悪性新生物に次いで全体のほぼ3割近くを占める患者の生命を奪いかねない恐ろしい病気である。

血栓症は、厄介なことに、大半は直前まで無症状なヒトが突然に発症することが多い。

さらに、多くの患者において 発症後は、生命の危機を取り留めても不可逆的な機能障害が残る、繰り返す再発によって機能障害が悪化するなど、一瞬にして患者の生活状態を激変させる疾患である。

 

ヒトは、多くの関連因子が緻密に統括された凝固機構を有し、多量の止血因子を保持するなど、出血に対する防御機構は万全に近いが、その反面血栓症に対しては極めて弱い一面がある。

体内では、血管を反応の場として、血小板と凝固因子が共役して止血作用を発揮し、これと同じ血小板と凝固因子が共役して血栓症を発症させるという不可解な現象が生じている。

 

血栓症は、血流が速い部位での動脈血栓症(脳梗塞、心筋梗塞、末梢動脈血栓症)と血流の遅い部位での静脈血栓症(深部静脈血栓症、肺塞栓)とに分類される。

動脈血栓症の血栓は血小板含有量が多い白色血栓を形成することが多く、治療は主に抗血小板療法が用いられている。

静脈血栓症での血栓は凝固因子の関与が大きく、フィブリンと赤血球含有量の高い赤色血栓を形成するため、治療には抗凝固療法が用いられる。

 

ワルファリン服用中の薬効評価として、臨床検査のPT-INRが用いられている。

PT-INRは、PT(プロトロンビン時間)測定値を国際間や施設間格差のない正確な絶対的数値を臨床サイドに提供する目的で設定されたものである。 

本剤投与の対象となる患者では、通常PT-INRを1.6~3.0に調整していくが、日本人(モンゴロイド)では、当然目標とするINRは疾患や患者によって異なり、高度な抗凝固効果を目指す場合はINR2.0~3.0で、これは常に確実に2.0を超えるという意味である。

また、軽度の抗凝固効果を目指す場合はINR1.6~2.4とし、基本的には2.0を超えるように投与調整される。

実際、心房細動による服用例では、INR2.0未満になると血栓症発症の危険性が高まるとの報告がある。