堀 太郎 『乗鞍遠望』 油絵F6号
難聴 (hearing loss)
http://kompas.hosp.keio.ac.jp/sp/contents/000558.html
・難聴は日常診療で頻繁に遭遇する耳疾患の二大症状だが、いずれも外耳から中耳、内耳、大脳の聴覚中枢までのどこの障害でも生じる。
・難聴は、外耳や中耳の障害による伝音難聴(音がうまく伝わらないための難聴)と、内耳の感覚細胞から大脳まで音を感知する神経の障害による感音難聴(音をうまく感じられないための難聴)の2つに分類される。
・難聴の診断は、各種の聴覚検査によってこれらの障害がどこに生じたかを特定することが基本となる。
・難聴は大きく分けて伝音難聴と感音難聴の2種類がある。
伝音難聴の原因となる疾患の診断は比較的容易で、鼓膜所見と各種の聴覚検査所見、側頭骨CTなどの画像検査所見から原因疾患を特定することができる(例:慢性中耳炎 、耳硬化症など)。
以下は感音難聴について。
急性感音難聴
・突発性難聴(sudden deafness)
「その時、何をしていたか」がわかるくらい突然、難聴が生じた場合、その難聴を突発難聴と呼ぶが、その原因は様々で耳垢や中耳炎などでもこのような症状が生じることがある。
これら様々な原因による突発難聴のうち、内耳に異常が生じるもので、原因が明らかではないものを突発性難聴と呼ぶ。
原因
突発性難聴の原因は分かっていないが、これまでの研究から内耳循環障害とウイルス性内耳炎が有力な病因と考えられている。
内耳循環障害、つまり内耳の血流が悪くなる原因としては、血栓(血液が固まったものが栓まる)や塞栓(動脈硬化の原因になるものが栓まる)、出血、血管攣縮などが挙げられている。
一方で、多くの突発性難聴は中年の比較的、健康な方に生じることが多く、高齢者ほど生じやすい血栓、塞栓、出血などが原因のすべてと考えるのは無理があり、その他にストレスによって血管のけいれんが生じることなども病因となり得ると考えられる。
また、突発性難聴になる前に風邪をひいていた方が一定数みられることから、風邪の原因ウイルスによって生じる内耳の炎症も有力だが、これまでのところ突発性難聴の原因となるウイルスは分かっていない。
主症状
・突然の難聴
・文字どおり即時的な難聴、または朝、眼が覚めて気づくような難聴。
ただし、難聴が発生したとき「就眠中」とか「作業中」とか、自分がそのとき何をしていたかが明言できるもの。
・高度な感音難聴
・必ずしも「高度」である必要はないが、実際問題としては「高度」でないと突然、難聴になったことに気づかないことが多い。
・原因が不明、または不確実
つまり原因が明白でないこと。
副症状
・耳鳴
難聴の発生と前後して耳鳴を生ずることがある。
・めまいおよび吐き気、嘔吐
・難聴の発生と前後してめまいや吐き気、嘔吐を伴うことがあるが、めまい発作を繰り
返すことはない。
・補充現象の有無は一定せず。
・聴力の改善、悪化の繰り返しはない。
・一側性の場合が多いが、両側性に同時罹患する例もある。
・第VIII脳神経症状以外に顕著な神経症状を伴うことはない。
・突発性難聴の診断には、純音聴力検査という聴力の検査を行う必要がある。
・その結果、聴神経腫瘍などが原因となっているかどうかを診断するために、脳波検査(聴性脳幹反応)や脳MRI検査などを行います。
治療
・突発性難聴の治療は、1週間以内に治療を開始した場合に効果が高いとされており、早期の治療開始が重要となる。
治療の基本は、副腎皮質ステロイドの点滴または内服治療で、さらに内耳の循環を良くするプロスタグランディンE1やATPなどの血管拡張薬や向神経ビタミン製剤(ビタミンB12)などを併用投与する。
治療開始後、3カ月程度まで回復の可能性があるが、早期に改善傾向が明らかとなった症例ほど最終的な聴力が良好となる可能性が高くなる。
・突発性難聴の治癒率は、全体としては約30%が完全治癒で、約50%は改善するが完全治癒までは至らない。
残りの20%はどのような治療を行っても改善がみられない。
どうしてこのような治療効果の違いが生じるのかはまだ分っていない。
また、完全治癒に至らなかった症例や、糖尿病などの合併症のためにステロイドの全身投与ができない方には、ステロイドの鼓室内投与という治療法が試みられることがあるが、その治療効果に関してはいまだ評価は定まっていない。