高プロラクチン血症

高プロラクチン血症とは、プロラクチン(PRL)というホルモンの血液中の濃度が基準値を超えて異常に高くなる状態を指す。

 

プロラクチンは脳の下垂体前葉から分泌され、主に出産後の母乳の分泌を促すはたらきをしている。そのため、出産後には血中プロラクチンが高値になるが、何らかの原因によって出産とは関係のないタイミングで異常高値を示すことがある。

 

女性だけでなく男性にも起こり得るもので、高プロラクチン血症になると女性では乳汁が出る、月経が来ない、男性では性欲が低下するなどの症状がみられるようになる。

 

原因はプロラクチノーマ(プロラクチン産生下垂体腫瘍)の存在や薬の副作用が多く、前者ではまず薬物療法によって腫瘍の縮小を図り、後者では該当薬の中止または減量を検討する。

 

原因

高プロラクチン血症の原因は、大きく “生理的要因” “病的要因” “薬の副作用” の3つに分けられる。

 

生理的要因

血中プロラクチン値は、妊娠、授乳、乳房刺激によって上昇するほか、睡眠や運動、食事(飲水含む)、精神的ストレスなども影響するといわれている。

 

妊娠中は高濃度の女性ホルモンによって、乳腺細胞でのプロラクチン受容体発現が抑制され通常母乳は分泌されないが、分娩後に胎盤がはがれ血中の女性ホルモンが急激に低下し、高プロラクチンの状態になると、作用が発揮され乳汁が分泌される。

 

病的要因

病的要因としてもっとも多いのがプロラクチノーマとされ、高プロラクチン血症の原因のうち約3割をプロラクチノーマが占めている。

 

プロラクチノーマは下垂体にできる良性の腫瘍で、何らかの原因によってプロラクチンを作る細胞が増加して腫瘍ができると、腫瘍から大量のプロラクチンが作られるため、血中プロラクチン値が正常上限の2~3倍上昇(血中PRL値が200g/ml以上)することがあるため、精査が必要となる。

 

ほかにも、比較的頻度の高い病気として以下が挙げられます。

 

Argonz-del Castillo症候群

Chiari-Frommel症候群

原発性甲状腺機能低下症

先端巨大症

間脳腫瘍 など

 

原発性甲状腺機能低下症では血中PRL値は100ng/mL以下にとどまることが多い。

 

比較的まれだが、以下の病気が原因となることもある。

 

サルコイドーシス

胸壁病変(外傷・腫瘍・帯状疱疹・外科手術瘢痕)

慢性腎不全

肝硬変

てんかん など

 

薬の副作用

プロラクチンの分泌はドパミンという物質によって抑制を受けているため、ドパミン受容体拮抗薬やドパミン合成阻害薬などによってドパミンが少なくなると、薬の副作用として高プロラクチン血症が起こることがある。また、セロトニンの作用を促す抗うつ薬などでも高プロラクチン血症が起こる。

 

高プロラクチン血症の原因となる主な薬には以下が挙げられる。

 

抗精神病薬

(フェノチアジン系[クロルプロマジン・ペルフェナジン・チオリダジン]、ブチロフェノン系[ハロペリドール])

抗うつ薬

(アミトリプチリン、イミプラミン)

消化器治療薬

(スルピリド、シメチジン、メトクロプラミド)

血圧降下薬(レセルピン、メチルドーパ)

エストロゲン製剤

(経口避妊薬など)

 

症状

高プロラクチン血症になると性腺の機能が抑制されるため、子どもでは思春期が遅れたり進行が止まったりする。

また、成人女性では月経不順、排卵障害、無月経、黄体機能不全、不妊、流産、乳汁分泌との関係も指摘され、成人男性では性欲の低下、勃起不全、まれに女性化乳房がみられるようになる。

 

プロラクチノーマが原因で腫瘍が大きい場合には、周囲の脳の組織を圧迫し、頭痛や視力低下、視野が狭くなるなどの症状が現れることがあります。

 

検査・診断

高プロラクチン血症は、血液検査で血中プロラクチン値を測定することで診断がつく。検査方法によって基準値が異なるが、現在では主にCLIA法またはECLIA法が用いられ、CLIA法では4.3~32.4ng/mL、ECLIA法では閉経前女性は4.91~29.32ng/mL、閉経後女性は3.12~15.39ng/mL、男性は4.92~13.69ng/mLが基準値となる。この値を超えて異常高値を示す場合に高プロラクチン血症と診断される。

 

ただし、一度の検査で確定とはならず、夜間睡眠後ピークとなり、午前10時~12時に最低値を示す日内変動もあるため再検査が必要になることもある。

 

また、症状の把握や原因を特定するために詳細な問診と身体診察に加え、血液検査でほかの項目を測定したり、MRI検査などの画像検査を行ったりすることもある。

 

治療

高プロラクチン血症に対する治療は、原因を除去することが原則。

使用している薬が原因と考えられる場合には、原疾患との治療の優先順位を考慮したうえで、薬の中止または減量を検討する。

 

それ以外では薬物療法が中心で、甲状腺機能低下症では甲状腺ホルモンを補充し、プロラクチノーマなどではドパミン作動薬が用いられる。

 

プロラクチノーマに関しては、腫瘍が大きく周囲の脳の組織を圧迫している場合や、薬物療法で十分な効果を得られない場合に、腫瘍を取り除くことを目的として手術や放射線療法が選択される。