前頭側頭型認知症
脳の前頭葉や側頭葉が萎縮し、言葉の意味がわからなくなったり、衝動的な行動をするようになったりする認知症です。
50~60歳代と、比較的若い年代に発症します。
前頭側頭型認知症とは
50~60歳代で起こりやすい。
若年性認知症の原因の1つ
前頭側頭型認知症は、脳の前頭葉や側頭葉に異常なたんぱく質が蓄積することで、脳が萎縮していく病気です。
前頭葉あるいは側頭葉から萎縮し始め、進行するとどちらも萎縮していきます。
2015年には、厚生労働省により指定難病に認定されました。
国内の患者数は1万2000人と発表されています。
ただ、前頭側頭型認知症についての理解はまだ不十分なため、アルツハイマー病と間違えられていることがほとんどで、見逃されていることも多いと考えられます。
発症しやすい年齢は50~60歳代です。
およそ500万人という認知症全体の患者数から見れば少数ですが、65歳未満に起こる若年性認知症に限ると、主な原因のIつなのです。
また、性別による発症数の差はないと考えられます。
前頭側頭型認知症の症状
言葉の意味が失われたり、衝撃的な行動が増える
初期に特徴的な症状が現れるので、症状チェックが早期発見に役立ちます。
Iつでも当てはまる場合には、前頭側頭型認知症を疑ってみたほうがよいでしょう。
萎縮する部位によって症状は違う
現れる症状は、萎縮している部位で異なります。
多くは側頭葉から始まります。
左側の側頭葉が萎縮すると、徐々に言葉の意味が失われます。
初めはふだんあまり使わない単語からわからなくなり、中等度に進行するとよく使う単語もわからなくなります。
右側の側頭葉が萎縮した場合は、知人や友人、ときには家族の顔を見ても誰だかわからなくなります。
前頭葉が萎縮すると、物を盗んだり交通違反を繰り返したり反社会的な行動が現れます。
前頭葉の萎縮で、いろいろな刺激に対する欲求や反応を抑えられなくなるのです。
自分の内面の要求のまま行動するため、周囲の人には気ままに行動しているように見えます。
同じ行動を繰り返す常同行動は、前頭型・側頭型共通の特徴的な症状です。
さらに食事に関しては甘い物が好きになり、毎日食べ続けるため、肥満や生活習慣病を招くこともあります。
認知症には元気がなくなるイメージがありますが、この病気には当てはまりません。
特に初期では、落ち着きがないのが特徴です。
もともともっていた性格や生活習慣が増幅される面もあります。
言われたことは理解できるため、困った行動をしたときにやめるように言えば、初期ではやめることもよくあります。
ただし、進行すると、より頑固になるため行動を制するのは困難になります。
初期は記憶力も見当識もほぼ保たれるため、一人で出かけても迷いません。
この病気になったとき、側頭型の人は言葉を失うことで1/3くらいの人が落ち込みます。
前頭型の人は、多くの場合、認知症に対する不安や自覚がありません。
前頭側頭型認知症の診断
問診、言葉と行動の異常の診察、画像検査から診断する
前頭側頭型認知症が疑われる場合には、物忘れ外来、認知症疾患医療センター、あるいは日本老年精神医学会や日本認知症学会の専門医がいる医療機関を受診することをお勧めします。
前頭型の人は、アルツハイマー病のように知らない病院に不安をもつということがないため、受診を拒むことはありません。
ただし、予約をしておいたのに、その日にいなくなってしまうことがあります。
側頭型の人は、言葉がわからなくなったことをある程度自覚して、自ら受診することも珍しくありません。
診断のために最も重要なのは、問診と言葉と行動の異常の診察によって、現れている症状を確認することです。
家族の話やその場での本人の態度から確認します。
また、簡単な前頭葉機能検査や失語症の診察を行います。
これが大変重要です。
しかし、通常の認知症診療では、このような診察が行われていない場合が多く、見逃しの原因になっています。
さらに、CT(コンピュータ断層撮影)やMRI(磁気共鳴画像)、SPECT(単一光子放出コンピュータ断層撮影)で脳の萎縮の部位や程度を確認します。
アルツハイマー病の薬で悪化することがあるため、しっかりとした診察と画像検査でアルツハイマー病との鑑別をすることが重要です。
前頭側頭型認知症への対処法
家族の適切な介護で生活の質を保つ
前頭側頭型認知症の対処法は、大きく2つに分けられます。
適切な介護・行動のコントロール
根本的な治療法は開発されていません。
しかし、病気の進行はゆっくりなので、適切な治療介護により安定した状態で生活できる可能性があります。
記憶力や見当識も、食事や着替えなどの日常生活動作も、比較的保たれます。
周囲の人の接し方によっては、生活の質を長く維持することができます。
そのためには、周囲の人は早期から適切な介護方法を知り、トラブルにならないように、患者さんの行動をコントロールすることが大切です。
家族だけで介護するのは負担が大きいので、毎日デイサービスを利用することが勧められます。
常同行動をうまく利用すると、介護が楽になります。
患者さんの趣味などの活動を日課に組み込み、それが常同行動になるようにすると、毎日一定時間は趣味活動に集中し、衝動的な行動などを減らすことができます。
行動のコントロールに関しては、行動を誘発する物を管理するのが基本です。
進行すると、目にした物を口に入れてしまうこともあるため、洗剤など危険な物は見えないところにしまっておきます。
■ 薬で症状を抑えられることも
抗うつ薬のSSSRIは、神経伝達物質のセロトニンを増やす作用により、常同行動や食べすぎを多少軽減するといわれています。
抗精神病薬は、ほかの認知症の場合も同様ですが、興奮や衝動的行動を抑える場合に使用することがあります。
前頭側頭型認知症に対する薬については効果を証明する治験は行われていないために、すべて保険適用外の使用になります。
■ 周囲の人と協力して患者さんを見守る
この病気は周囲の理解があると、トラブルが起きにくくなります。
患者さんの行動範囲の人たちには、病気のことを伝えておきましょう。
進行した場合には、家族だけで抱え込まず、医師と相談して一時的に入院を考えることも必要です。
初期症状チェック
①知っているはずの言葉を聞いても意味がわからない
②知人や友人の顔を見ても、誰かわからない
③店頭や人の家の庭先にある物を勝手に持っていく
④一時停止違反や信号無視など、交通違反を繰り返す
⑤毎日のように急に出かける
⑥甘い物が過剰に好きになったり、毎日同じ料理を食べたり、食べ物をあればあるだけ食べるようになった
1つでも当てはまったら
前頭側頭型認知症を疑って、早めに医療機関を受診する。
参考
きようの健康 2016.4
福島県立医科大学会津医療センター心身医療科 川勝 忍教授