パーキンソン病

パーキンソン病は、早期に発見して適切な治療を受けることが重要です。

そのためには、症状の特徴を知って、変化を見逃さないようにしましょう。

 

パーキンソン病の症状 

手足が震えたり、動作が遅くなるなどの障害が現れる

パーキンソン病は、脳の神経細胞に異常が起こり、手の震えやうまく歩けないなどの障害が現れる病気です。

高齢者に多く、まれに40歳代以下の人に起こることもあります。

日本には、15~18万人の患者さんがいると推計されています。

 

かつては、パーキンソン病は「寝たきりになる病気」といわれていました。

現在は、治療によって健康な人とあまり変わらない生活を送ることができます。

 

■主な4つの症状

①手足が震える

②動作が遅くなる

③筋肉が硬くなる

④バランスが保てない

などが代表的な症状です。

 

手足の震えは、パーキンソン病の最も初期から現れます。

何もしていないときに震えることが多く、コップを持つなどの動作をするときにはあまり震えません。

震えは片側から発症し、徐々に両側に広がります。

 

また、手や指の細かい動作がスムーズにできなくなります。

例えば、親指と人さし指を早く打ち合わせることができなくなります。

 

動作が遅くなると、歩幅が小さくなる、歩くのが遅くなる、歩くときにつま先が上がらなくなる、足を引きずるようになる、体が前かがみになる、手足の振りが小さくなるなどの症状が現れます。さらに顔に表情がなくなったり、声が小さくなることもあります。

 

筋肉が硬くなるのは、筋肉の緊張が高まるためです。

自分では気付きにくく、診察のときに力を抜いた状態で手首やひじなどの関節を動かすと、歯車のようなカクカクする抵抗が感じられます。

 

発症して数年後には、体のバランスが保てなくなります。

体のバランスも、診察して確かめるとわかります。

 

こうした運動に関する症状に加えて足腰の痛みや疲労もよく起こります。

 

■そのほかの症状

・便秘

・嗅覚低下

・不安、うつ

・睡眠障害(レム睡眠行動異常症など)(注1)     

・排尿障害

・起立性低血圧

・認知機能障害(注2) 

・唯下障害

    など

 

(注1)

夢に合わせて体が動いてしまう睡眠障害です。

睡眠中に大声を出したり、そばにいる人をたたいたり、蹴ったりすることがあります。

 

(注2)

買い物や料理など、物事の段取りをするのが遅くなります。

幻覚などが現れるレビー小体型認知症などが起こることもあります。

 

■症状は徐々に進行する

何年もかけてゆっくり進行します。

適切な治療をすれば発症してから10~15年は自立した生活を送ることができます。

 

なぜ起こる?

加齢などでドパミンが減少することが原因

パーキンソン病では、脳の神経細胞が信号のやり取りに必要とする神経伝達物質の一種であるドパミンが減少します。

 

体を動かそうとするときには、脳の大脳皮質から全身の筋肉に運動の指令が伝えられます。

その指令の調節に欠かせないのがドパミンです。

ドパミンは、脳の奥にある黒質という場所の神経細胞で作られ、別の神経細胞に送られて運動の指令を調節します。

 

パーキンソン病では、黒質の神経細胞が減少するのでドパミンの量が減ります。

そのため、調節に支障が生じて体がスムーズに動かなくなります。

 

■加齢が大きく影響

黒質の神経細胞が減る原因はよくわかっていません。

ただ、加齢に伴い黒質に特殊なたんぱく質がたまり、神経細胞が障害されるためではないか、と指摘されています。

そのために高齢者に発症しやすいと考えられ、65歳以上の100人にI人はパーキンソン病といわれています。

 

40歳代以下の人に起こる場合は、遺伝が強く関与しています。

高齢で発症するより進行が遅く、認知症になりにくいのが特徴です。

 

 

ただし、必ず子どもに遺伝するわけではありません。

 

早期発見するには

手足の震えや歩き方の変化を見逃さない

早期発見のためには、最初に現れることが多い手足の震えを見逃さないことが大切です。

周りから、歩き方が変わったと言われて気付くこともあります。

理由もなく歩幅が小さくなったり、足を引きずる場合は要注意です。

 

疑いがあれば画像検査を

パーキンソン病が疑われた場合は、SPECTなどの画像検査が行われます。

SPECTは、微量の放射性物質を注射して脳を輪切り状に撮影します。

放射性物質は黒質のドパミン神経に取り込まれます。

画像を見れば、ドパミンが減少しているかどうかがわかります。

この検査は、2014年から保険適用になりました。

その結果、以前より確実に診断できるようになってきています。

 

また、パーキンソン病では、心臓の筋肉(心筋)の交感神経の働きが低下しやすくなるため、SPECTで別の放射性物質を注射して心筋を撮影し、交感神経の変化を調べる場合もあります。この検査は、従来から行われている検査で、進行しているほど変化が出やすくなります

 

そのほか、CT(コンピュータ断層撮影)やMRI(磁気共鳴画像法)などが行われることもあります。

 

より早い発見のために

最近の研究で、運動の症状より先に、便秘、嗅覚低下、うつ、レム睡眠行動異常症などが、しばしば前触れとして現れることがわかってきました。

手の震えがあり、なおかつこれらの症状が思い当たる場合は、より積極的に受診することをお勤めします。

 

現在は、前触れとなる症状だけではパーキンソン病の診断は不可能で、運動の症状を改善することもできません。

しかし、今後は研究が進み、パーキンソン病の発症予防や、より早期に治療の道が開けると期待されています。

 

パーキンソン病の治療

運動の症状には薬での治療がとても効く

パーキンソン病は、運動の指令を調節する脳内のドパミンが減少することで起こります。薬によってドパミンを補うことで、運動の症状を改善します。

手の震えなどの症状は、薬でかなり抑えることができ、発症して2~3年前後は治ったのではないかと思うほどよくなります。

 

薬で、これほど症状がよくなる慢性的な脳の神経の病気は、ほかにはあまりありません。

 

進行後も、薬を適切に組み合わせることで10~15年、さらにはそれ以上の期間、自立した生活を送ることができます。

 

主な薬は2種類

中心になるのが、レボドパとドパミンアゴニストという2種類の薬です。

レボドパは、脳の中でドパミンに変化して、ドパミンと同じ働きをします。

ドパミンアゴニストは、ドパミンに似た物質で、脳の中でドパミンの働きを補強します。

 

レボドパは、効き目が強い反面、持続時間が短いため1日3回程度服用します。

ドパミンアゴニストは、効き目は弱いものの効果が長続きします。

特に、長く作用する徐放剤や、貼り薬は、1日I回で済みます。

 

また、レボドパを長く使っていると、ウエアリングオフという現象や、ジスキネジアという不随意運動が現れることがあリます。

 

ウエアリングオフとは、薬の効果が早く切れて、症状を抑えにくくなることです。

ジスキネジアとは、薬が効きすぎて、首や肩、手足などが自分の意思とは関係なく動くことです。

 

ドパミンアゴニストでは、こうした症状はあまり現れません。

しかし、吐き気や眠気、幻覚などの副作用が起こることがあります。

 

症状の重さ、年齢に応じて使い分ける

レボドパは、中等度以上や、仕事などのために早く症状を改善したい人に適しています。高齢者がドパミンアゴニストを使うと、幻覚や認知機能障害などが現れやすいため、軽度でもレボドパを使うことが多くなります。

 

ドパミンアゴニストは、軽度の人に適した薬です。

また、40歳代以下の人はレボドパを使うと、ウエアリングオフやジスキネジアが起きやすくなるため、ドパミンアゴニストを使うことが多くなります。

しかし、効果が弱いため、3年ほどでレボドパとの併用が必要になります。

 

なお、病気が進行すると、両方の薬を併用することが多くなります。

 

そのほかに併用する薬

ドパミンの効きを長くするMAO-B阻害薬やCOMT阻害薬、脳の黒質の神経細胞からのドパミンの放出を促すドパミン遊離促進薬があります。

また、ある種の抗てんかん薬やアデノシンA2A受容体拮抗薬は、ドパミンとは別のところに働き、症状を改善します。

 

これらの薬をレボドパやドパミンアゴニストと併用することで、治療効果を高めたり、ウエアリングオフやジスキネジアを抑えます。

 

薬は迷わすに使うこと

薬は、パーーキンソン病と診断されたら迷わず使います。

症状によって生活に不自由がある場合はなおさらです。

以前は、薬を早くから使うと、早く効かなくなる、進行しやすくなるといわれていました。しかし最近の研究では、それが誤りであることが明らかになりました。

薬を早く使うことで、悪影響が出ることはまずありません。

 

運動以外の症状への対処

それぞれの症状に応じた薬や生活習慣の改善を

運動以外の症状が現れた場合は、その対策に取り組みます。

軽いうつや認知機能障害の一部には、レボドパやドパミンアゴニストが有効です。

それ以外は、症状に応じた薬を使ったり、生活習慣の改善を行って対処します。

 

レビー小体型認知症を合併している場合は、その進行を抑える薬を使います。

 

パーキンソン病の治療②

手術で装置を埋め込めば薬の副作用も解消できる

深部脳刺激療法という手術が行われることもあります。

この手術は、脳の奥の、運動の指令の調節に関係する場所に電極を埋め込み、さらに胸の皮膚の下に刺激発生装置を埋め込みます。

電極と剌激発生装置を皮膚の下に通したコードでつなぎ、刺激発生装置から弱い電流を流し続けることで、脳を刺激して症状を改善します。

 

刺激発生装置のバッテリーは、5年ほどたったら、簡単な胸の手術をして交換します。

最近登場した充電式のものの場合は、約10年で交換します。

脳の電極の手術は原則1回です。

 

⬛︎ 手術する場

ウエアリングオフやジスキネジアが頻発し、薬で抑えるのが難しい場合に手術が検討されます。

手術後は、ウエアリングオフが起きにくくなります。

また、電極を埋め込む場所によっては、ジスキネジアも出にくくなり、薬も減量できます。

ただし、薬が全く要らなくなるわけではありません。

 

50~60歳代の人は、特に効果が大きく、仕事などの活動の幅が広がります。

一方、高齢者では、手術時に脳出血などの危険が高まるので慎重に検討します。

 

そのほか、腸に細い管を通してレボドバを持続的に注入する手術が、日本でも近いうちに始まる可能性があります。

 

パーキンソン病の治療③

将来的にはiPS細胞の利用も期待されるさまざまな細胞に分化する能力を持つiPS細胞を、黒質の神経細胞に分化させて移植する研究が進められています。

この方法では、脳内でドパミンを作る細胞自体を増やすので、薬を超える効果が期待され、また薬の作用を助ける効果も期待されます。

数年のうちに、症状が進行した患者さんを対象に臨床研究が始まる予定です。

 

iPS細胞は、患者さんの血液から新しく作る方法と、血液細胞から作製されてすでに保管されているものを使う方法の2種類が検討されています。

後者の場合は、拒絶反応の起こらないものを選んで使います。

 

また、iPS細胞から作製した神経細胞を、パーキンソン病の原因の解明や新薬の開発に応用することもできます。

 

薬や手術では、パーキンソン病の症状を抑えることができても、黒質の神経細胞の減少を止めたり、病気の進行を防ぐ方法はまだありません。

しかし、現在ではさまざまな研究が進んでいます。

 

将来は、根治を目指した治療法の開発が期待できます。

 

参考

「きょうの健康」2016.3

 

関連サイト

パーキンソン病解明進む

http://blogs.yahoo.co.jp/ewsnoopy/39641534.html

 

パーキンソン病の早期発見

http://blogs.yahoo.co.jp/ewsnoopy/39840072.html

 

 

医療関係者向け

パーキンソン病の症状 [神経内科]

http://harrison-cecil.blog.so-net.ne.jp/2010-09-09

 

“随伴する認知症”とパーキンソン病の予後

http://wellfrog4.exblog.jp/17578851/

 

パーキンソン病の画像診断

http://wellfrog4.exblog.jp/14271975/

 

パーキンソン病治療の最前線

http://wellfrog3.exblog.jp/10905552/

 

コーヒー・たばことパーキンソン病

http://wellfrog3.exblog.jp/11173364/

 

レビー小体型認知症(DLB)

http://wellfrog.exblog.jp/7065699/

 

このはずく医者の「よろず備忘録」

http://d.hatena.ne.jp/osler/20100419